この施設には日本円にして年間約3億円の資金が投入されているそうです。その半分は酒税から、残りの多くは郡の援助によるものだそうです。ただ、ここを出て経済的に自立した元ホームレスが収める所得税が年間3億円ぐらいで、それを考えればペイできているとも言えます。
開設後の10年間で、ローリー市の人口は増加しているにも関わらず、ホームレスの数を大幅に減らすことができたのだとか(具体的数字は帰ってメモを見ないと)。
僕は他のホームレスシェルターを見たことはありませんが、比較すれば、大変に清潔で、人間らしい処遇に努めている施設だそうです。その一方で「あざといぐらい」の動機付けの仕組みが考えられています。それは建物の設計からしてそうなのです。
さて、これは入り口。In Remembrance と書かれたボードには、この施設を出て行って死んでしまったホームレスの顔写真が飾られていました。「ホームレスの生活を続けているとどうなるか」を視覚的に表現しています。
デトックス(アルコールや薬物の解毒)ベッド。医療的なサービスはありませんが95%の人はここで安全に解毒できるそうです。このベッドは解毒を希望する人が使えます。見ていただくと分かりますが、仕切りがとても低くプライバシーはほとんど保てません。荷物はベッドの下に置くのですが、外へ出るときは荷物は持っていかないとなりません。
解毒を済ませた人は、RDを使った12ステッププログラムに取り組んでみないか、という誘いを受けます。誘うのはもちろんスタッフではなく、今プログラムに取り組んでいる人たちです。
プログラムを受けることに同意すると、Cubicleというエリアに移動します。先ほどより仕切りが高くなり、ややプライバシーが保てます。外出するときも荷物をベッドの下に置きっ放しにできます。環境がすこしだけ良くなったわけです。
奥に見える緑色の二段ベッドは overnight shelter。アディクションの有無に関わらず、また酒や薬をやめる気があるかどうかに関わらず一晩だけ利用できるベッド。ただし朝になったら出ていかねばなりません。
利用を続けていると、隣りのキュービクルに移してもらえます。こちらでは隣のベッドとの間隔が拡がり、ハンガーや荷物入れが提供されるなど、また少し環境が良くなっています。壁の高さもまた少し高くなったでしょ。隣のキュービクルを見ながら、「少しでも良い暮らしがしたい」という欲望を刺激するような作りになっています。
この時点では、RDのセッションは同じ施設内では受けられず、2Kmほど離れた施設へ自分の脚で歩いて通うことになります(送迎はなし)。施設で提供してくれる朝食を食べ、歩いて移動し、午前午後とRDのセッションを受け、昼食は教会の soup kitchen(炊き出し)で食べ、そして夕方5時までに帰ってくれば、その日の夕食とベッドが確保できます。門限時間までに帰ってこなければ自動的に退寮。
さらに次のキュービクル。私物を格納するチェストが与えられ、隣のベッドとの間隔もさらに開きました。
昼間提供されるRDのセッションはこの時点ではステップ1の4つのセッションのみ。ひたすらステップ1の情報を繰り替えし与えられ、それを自分に当てはめて理解し、受容することで次のキュービクルに進んでいけます。
ここがフェーズ1の最後のキュービクル。ここで、フェーズ2に進むかどうか選択を迫られます。フェーズ2ではRDの28個のセッション全部を使って12ステップ全体に取り組みます。フェーズ2に進むことにした利用者は中庭を挟んで隣の建物に移り、それを選ばなかった人は退寮になります。
左側のベッドのビッグブックなどを積み上げている人は、もうステップやる気満々なのかもしれませんね。
こうしてみると、ドロップアウト率はそれなりに高いのでしょう。でも何度でもリスタートできるようになっています。そうやってドロップアウトとリスタートを繰り返すうちに、どうやれば「より良い暮らしができるのか」を理解していく仕組みです。ドロップアウトを否定的に捉えないことが大事か。
部屋の掃除やオーバーナイトシェルターの人たちの世話は、各キュービクルの人の役割になっています(これもピアサポートか)。この看板は最終キュービクル#7の人たちはトイレ掃除を任されていることを示しています。プログラムの先に進むほど重い責任を持つようになっていて、より自由でより良い生活は、自分に対しても他者に対しても責任を負うこととセットになっているのです。
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