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忘れる技術
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忘れる技術~思い出したくない過去を乗り越える11の方法
岡野憲一郎/著

目次
「忘れて」もらってもいいまえがき

第1章 忘れられない人々
 私自身の忘れられない思い出
 忘れられないケース①突然よみがえってくる「外傷記憶」
 忘れられないケース②けっして消えない恨みの記憶
 忘れられないケース③人を傷つけた加害者としての罪悪感
 忘れられないケース④過去に時問が逆流するうつ病
 忘れられないケース⑤過去にしばりっけられ、ある行為をくり返す強迫神経症
 忘れられないケース⑥脳が過去の興奮や快感を忘れない薬物中毒
 忘れられないケース⑦病気だとわかってもらえない依存症
 忘れられないケース⑧もって生まれた忘れない才能―サバン症侯群

第2章 なぜ忘れることができないのか
 忘れられない記憶の病理
 忘れられる記憶は「善玉の記憶」である
 「頭の記憶」と「体の記憶」の深い関係
 記憶はどこで作られるか―脳のなかの記憶の工場
 忘れられないのは、「欠陥のある記憶」
 驚異のサバン現象―天才児はなぜすべてを憶え、しかも忘れないのか?
 心の側から見た「忘れられないわけ」

第3章 忘れる技術を伝授する
 忘れる技術・その1 忘れたい刺激を遠ざける
 忘れる技術・その2 怒りやフラストレーシヨンを何かにぶつける
 忘れる技術・その3 賠償を要求する、訴える
 忘れる技術・その4 人に話す(カウンセリングを受ける)
 忘れる技術・その5 相手について知る(理解し、許す)
 忘れる技術・その6 新しい世界に踏み出す
 忘れる技術・その7 与える人生を歩む
 忘れる技術・その8 薬物療法を試みる
 忘れる技術・その9 思考制止術を用いる
 忘れる技術・その10 バランスシートを用いる
 忘れる技術・その11 名人に学ぶ―中島誠之助さんの例

あとがき


「忘れっぽくて困る」という悩みの反対に、忘れられなくて困るという悩みについて書かれた本です。テクニカルな本ではなくて啓蒙書です。

まず「忘れられない」という病理について、例を挙げて書かれています。①フラッシュバックを含むPTSDを引き起こすような「外傷記憶」。②危害を受けた恨みの記憶(ACの親への恨みを含む)。③加害の罪悪感(surviver's guilt含む)。④過去を後悔するうつ病。⑤強迫神経症。⑥快感を脳が忘れない薬物中毒。⑦ギャンブルなどのプロセス中毒。⑧自閉症によるサバン症候群。

第2章では、脳のネットワークの話を元に、なぜ忘れられるのかを説明します。記憶のうち、陳述的記憶は海馬が、手続き的記憶は扁桃体が担っており、その両者が結びつかない「不完全な記憶」になると忘れられなくなると説明しています。
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ついで、心理的な話として「心のバランスシート」を挙げています。これは図のように、人に与えた恩恵・受けた恩恵、人に与えた危害・受けた危害、を貸借対照表のように書いたものです。②の恨み、③の罪悪感は、この収支のバランスが均衡しないときに起こると説明されています。危害を受けたとき、私たちは相手に賠償させたいとか、謝らせたいという「収支バランスを均衡させよう」とする欲求が起こります。

ところで、人は自分が与えた傷は小さく、人から受けた傷は大きく評価するため、「心のバランスシート」は恨みの側に傾きやすいわけです。

危害を受けた場合には反撃をするのが、それ以上の危害を受けるのを防ぐのに有効な手段です。報復したいと感じるのは、生物が生き残って子孫を残していくのに必要な自己保存本能です。しかし現代社会では、報復行為は許されていません。そこで、将来いつか復讐をしてやる、と誓うことによって、報復できない現在の屈辱感や怒りに耐えられるようにする。これが恨みの正体です。

バランスシートの目的の一つは、自分に危害を与えた(将来も与える可能性のある)人物に報復する、報復できるという意識をはっきり持つことです。つまり自分には報復する権利があることを確認することです。

ビッグブックのp.95に棚卸し表を自分で見て、「最初にはっきりしたことは、この世間と世間の人間どもは何ともひどいものだということだった。(略)世間の人間たちにいつも不当に扱われ、自分たちは傷ついたのだ、というのがおおざっぱな結論だった」とあります。棚卸しをするときに、まず最初に「相手が悪いのだ」と結論することが何より大切だという、すみだGの○○さんの話を聞いたとき、なるほどと思ったものです。

その次の段階として、過去から抱えている恨みが、現在の自分自身を苦しめていることに目を向けます。過去には自分を支えてくれた恨みが、今ではかえってマイナスになっていることを知って、初めて人は恨みを手放そうと思えるのでしょう。

最初の段階は自分でも意識していない恨みにきちんと向き合うため、次の段階は恨みを忘れたいという欲求を形作るため。この二つの段階をきちんと踏まずに、いきなり相手を理解し許そうとすれば、かえって自分を傷つけてしまうでしょう。恨みの話が出るたびに「許せ、許せ」の大合唱になるのは実に困ったことなのです。
(ここら辺の話は僕が考えたもので、本の内容から外れていますが、許すことでかえって傷つくことがあるというのは本の内容から)。

第3章は、具体的な忘れる技術が紹介されています。それぞれの技術が有効な記憶の種類は○数字で書いておきます。

「忘れたい刺激を遠ざける」①、②、③、④、⑤、⑥
  心理的物理的に距離を取る。
「怒りやフラストレーシヨンを何かにぶつける」①、②
  ビル・Wもやった水療法とか、身体運動(二郎さんの山?)など
「賠償を要求する、訴える」①、②
  訴えなくても、言いたいことは言う
「人に話す(カウンセリングを受ける)」
  カウンセラー以外にも自助グループが挙げられています
「相手について知る(理解し、許す)」①、②
  therapeutic forgiveness(治療的な許し)
  聖書の「エフェソ人の手紙」に従った許しのための5ステップ
「新しい世界に踏み出す」②
  どんな「新しいこと」が役に立つかやってみないとわからない
「与える人生を歩む」③
  直接相手にできなくても未来ある人々すべてが相手になり得る
「薬物療法を試みる」①、④、⑤、⑥
  SSRIは強迫神経症にも効く。βブロッカーはPTSDに効く。
「思考制止術を用いる」①、②、③、④、⑤、⑥
  認知行動療法による訓練。
「バランスシートを用いる」②
  AAメンバーに棚卸しの効能を改めて説くまでもない
「名人に学ぶ――中島誠之助さんの例」
  事例紹介なんだけど・・・

岡野先生は東大卒業後、フランス、ついでアメリカで経験を積んで帰国。PTSD、解離、人格障害などの専門家で著書も多くあります。
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by kokoro-no-iede | 2010-02-22 18:48 | Bookplate
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